8年前、フレンチプレス・コーヒーメーカーという器具は、紅茶を飲むためのものだとばかり思っていた。
香ばしいコーヒー豆と一緒に持ち込まれたこの器具は、実は粉砕したコーヒー豆を入れてお湯を注ぎ、4分待って抽出するものであることを教わり、その器具の輸入元と商談して「コーヒー豆付き」でカタログに載せて販売した。フランスではほとんどこれなんですよと輸入元の人に教えられてそういうものかと。
レギュラーコーヒーを淹れる方法として、
の3つが主だった方法であることも併せて教わったが、ペーパーフィルターでしかレギュラーコーヒーをいれたことがなかったのでやや面食らった。
そもそも粉砕した豆を全部そのままこのコーヒーメーカーのビーカー内に入れてお湯を注いで、ぐいとプレスしたら、雑味とかそういう余分なものも全部湯に溶け込んでしまってよくないのではないか。 そう思いながら輸入元に言われるままの方法で中細に挽かれたコーヒー豆をガラスビーカーの中へ投入し、沸騰したお湯を注ぎ込んだ。
4分後、真ん中にあるハンドルをゆっくりと真っ直ぐに押し下げた。
ガラスの内部の湯の中で焦げ茶色の粉が舞う。
ああ、いろんなものが混ざっちゃうぞ。正直そう思った。
輸入元の人は、慣れた手つきで用意してあった小さなコーヒーカップに出来上がったコーヒーを注いだ。
ひとくち飲んだ。香ばしい香りがいっそう強くなって鼻腔を浸す。ふたくちめで飲み干してもう一杯。
そしてもう一杯。計三杯飲んだ。
豆の持っている特徴がバランスよく湯に溶けている感じがした。ペーパーで淹れたときのようなどこかマニアックでストイックな味わいではない。とってもカジュアル!
安定したおいしさの三杯……。
輸入元の人は、自慢げで今でいうドヤ顔で
「おいしいでしょう。フレンチプレスのほうが簡単でいつも同じ味で飲めるんですよ。
そのうえこの豆は世界的に名の知れたバイヤーの丸山健太郎さんという人が世界中探して見つけた、おいしい豆ですからね」。
その豆の袋には当時はまだ無名(失礼!)だった丸山珈琲の名前があった。
丸山珈琲の丸山健太郎さん、と説明だけされても正直あまりぴんとこなかった。
器具の中で舞っていた中細に挽かれた豆の残像が脳裏で動き、奥深い味わい、ペーパーで濾過しないからこその豆の持ち味である油分も一緒にいただいての味わいが、のどから胃へ落ちていくのではなく、脳へ意識へと昇っていく不思議な感覚を味わっていた。
コーヒーはもちろん好きでよく飲む。
が、豆の産地がどこだから、こんな味わいとか一般的なコーヒー好きが知っていることすら、よくわかっていなかった。
そんな状態で小諸へ出かけた。
小諸には、丸山珈琲の焙煎工場と店舗がある。
8年ぶりの取引となるが、その間に店舗は増え、一流百貨店の催事出店やギフトカタログへの商品採用などを通して知名度も飛躍的に上がり、「丸山珈琲」はいまやこだわりのコーヒーといえば、真っ先に名前が出るブランドとなった。
8年前と全く変わらないのは、社長の丸山健太郎さんが海外に高い品質の豆を探しに行っていて会えないこと。
小諸に行く前に都内で同社の名サイフォニストの中山吉伸さんに会ったときに「丸山さんに会えますかね」と聞いたが、「たぶん無理です。海外でも連絡は取り合っていますが。」小諸で担当の伊藤亜矢子さんに「社長とはやっぱり会えないんですよね」と聞くと「はい。帰ってきても翌日にはどこかでセミナーとか催事とかで。年がら年中いませんので」。
アルバイト、パートさんまで含めて丸山珈琲のスタッフは総勢140名を超える(2016年2月現在)。
大所帯だが、ひとりずつの役割は専門化、尖鋭化しており、皆忙しく、文字通り脇目も振らずに業務を遂行する。
小諸は、まだ夏の行楽、ギフトシーズン前だから店舗内も含めて比較的余裕があるのかと思いきや、平日の10時すぎから軽井沢の別荘族が車でやってくる。自家需要の豆の出荷、各店舗への出荷など慌しく人が動いていた。
アメリカから取り寄せたという巨大なロースターで焙煎される豆の焼き加減を、焙煎人がその場でカッピングして判断する。
焼き加減のチェックだ。
丸山珈琲では、いい状態でなるべく早めに届けたいと受注生産で焙煎して出荷している。
伊藤さんにすすめられるまま、小さなフレンチプレスに入ったテイスティング用の6種類のコーヒーをいただいた。
「インドネシアの豆はスパイシーさと独特な香りが特徴で、アフリカ系の豆は酸味、フローラルさが特徴のものが比較的多いです」との事。
今回ご紹介する、タケンゴンはインドネシア・スマトラ島産、ンゴロはアフリカ・ブルンディ産。
インドネシア産のスパイシーさ、アフリカ産の酸味をその場で楽しませてもらった。
平日の午前中。客はまだまばらだが、確実に入店がある。
地元の農家の方が長靴で来店ということもあるとか。
綺麗で洒落た店で、接客も都内の一流ホテルのような上品な物腰だが、妙な気取りがない。だから、長靴を履き替えずに客がくるのだろう。
すべてが、ほとんど日本にいない丸山健太郎という人の求心力なのだと思う。
「社長がいなくてもお客様や社長にも安心していただけるように私たちでがんばらないと、そんなふうにみんなが思ってるんだと思います」。
その場にいて細かくいろいろアドバイスすれば、目も行き届くし、技術の習得も早いだろう。でも丸山さんはいつもいない。
それでもお店の認知は広がって店舗数も増え、スタッフは熟練していく。
ふと目をやると、元は外車のディーラーだったという広い小諸の焙煎工場兼店舗の中、相変わらずめまぐるしくスタッフが動いている。
小諸から戻って以来、すっかりコーヒーはフレンチプレス派になった。
8年前にはフレンチプレス・コーヒーメーカーとコーヒー豆は売ったが、自分でコーヒーを飲むときには依然としてペーパーフィルターで淹れていた。
いまはレギュラーコーヒーを淹れるときにはフレンチプレスに限ると思っている。
コーヒー豆の持つ雑味、きれ、コク、油分などペーパーフィルターに全部吸い取られてしまいそうな豆の味わいをそっくり楽しめるほど、味覚も気持ちも「大人」になったのかもしれない。
当時すでに40代ではあったが、まだまだ前に進むことを妨げるこだわりがあり、意識も低かったのだと思う。
何度も言うが、フレンチプレス・コーヒーメーカーのすばらしいところはコーヒーを常に一定の味わいで楽しめること。特別な技も知識もいらないところだ。
スタッフと丸山珈琲の東京・尾山台店を訪れた。
今回取り上げるタケンゴンとンゴロがメニューにあったのでシングルで注文した。
丸山珈琲全店で、フレンチプレス・コーヒーメーカーで抽出したコーヒーを楽しむことができる。
オーダーしたシングルコーヒーは可愛らしいデンマーク・ボダム社製のフレンチプレス・コーヒーメーカーで運ばれてきた。
ガラスのビーカーが格子柄のようなデザインのステンレスフレームに包まれている。こんな可愛らしい道具もおいしいコーヒー豆と一緒におすすめしたい。
そんな気分になって、帰社後に実用品担当にボダム社に話をつなげてもらい、写真のようなローズゴールドの可愛らしいコーヒーメーカーをご紹介することに。
お店で見たのは白だったが、今回私たちが販売させていただくのは、「カッパー」というこの新色。
ピンクがかった銅色でクラシックな重厚感と、シルバーやゴールドとは違った暖かさや華やかさがある色合い。
自宅にある8年前に販売したかつてのフレンチプレス・コーヒーメーカーは、シンプルだが無骨で正直あまり愛嬌がない。
この新色に気持ちがぐいと引っ張られてしまっている……。
親密さの時間は随分長いと聞いた
コーヒーへのこだわりを大事にかたやおいしい豆を提供し続け、かたや素敵な道具を日本に紹介し続けている
それらを、読者のみなさんの素敵なくつろぎの時間のためにご紹介します
金属のフィルターで濾すフレンチプレスは、コーヒーの油分まで余すことなく抽出できるため、コーヒーの素材本来の美味しさをお楽しみいただけます。
また、熱湯を注いで4分待つだけと、淹れ方も簡単で、誰にでもいつも同じ味わいのコーヒーが淹れられます。
必要なものを準備し、コーヒーの粉をフレンチプレスに入れます。
熱湯を注ぎ始めると同時に、4分の計測開始。一湯目は、プレスの半分くらいまで注ぎます。
※ 熱湯は、粉全体にお湯が行き渡るように注ぎます。
タイマーが30秒ほど経過したら、二湯目を注ぎます。
ビーカーの上から1.5cmくらい下まで注ぐ(目安)
注ぎ終えたら、蓋をしてタイマーの4分が経過するのを待ちます。
※ 待っている間は、プランジャーを下げません。
4分たったら、プランジャーをゆっくり押し下げます。
カップに注いで、できあがりです。
丸山珈琲
おすすめ深煎りシングルコーヒーセット
2,484円 (税込)
ボダム アイリーン
フレンチプレスコーヒーメーカー
12,960円 (税込)
1991年の創業以来、軽井沢で親しまれ続ける丸山珈琲はオーナー自ら厳選し直接買い付けた世界各地の高品質コーヒー(スペシャルティコーヒー)を数多くご紹介しています。
今や、生産国で開催される品評会に世界で最も多く参加しているテイスターとしても知られるオーナー丸山健太郎氏が、年間約150日近く生産地を訪問し、自ら厳選した高品質コーヒーを直接買付けています。
その素材の持ち味を生かした独自の焙煎技術によって焙煎された香り高い高品質コーヒー豆と、日本トップクラスのバリスタを多数輩出している丸山珈琲のバリスタが淹れるコーヒーは、全国の卸先や個人のお客様から高い評価を獲得しています。
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