使ってほしい!この逸品 | 【バイヤー江口の出張報告】北海道・美瑛 「伊庭善」伊庭 崇人さん

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使ってほしい!この逸品

【バイヤー江口の出張報告】北海道・美瑛 「伊庭善」伊庭 崇人さん

  • 2017/07/31

道具の向こう側

「家具がどんどんカタチになっていくのは楽しいですけれど、やっぱり木工の醍醐味っていうのは、木を削っていく感覚ですかね。木と触れ合っているのが一番ダイレクトに伝わるのが好きですね。」北海道・美瑛に木工房「伊庭善」を構える伊庭崇人さんが、お手製の鉋(かんな)を手に、座面を小気味よく削りながらポツリと教えてくれました。

鉋や鑿(のみ)、鋸(のこぎり)といった素人の私にも馴染みのある道具と、工夫が凝らされたjig(冶具)を使いこなすことで一つ一つ丁寧に生み出される家具たち。すべての工程で伊庭さんは木に触れ、仕上がりを手触りで確かめながら次の工程に作業を進めていました。

使い手は、作り手の温もりを道具から感じることで、道具に対する愛着や愛情というものが沸くような気がします。「使う」という行為が、道具の背景にある作り手の温度を感じるとき一緒に「暮らす」仲間になる気がするのです。今回の「ロングスツールができるまで」を工房見学するようにご覧になっていただくうちに、伊庭さんの「ロングスツール」が皆さんの暮らしの仲間入りをしてくれたらいいなと思います。

 

伊庭善「ロングスツール」ができるまで

工房壁面には、伊庭さんお手製の工具たちが整然と並びます。削る道具、切る道具、叩く道具、計る道具などなど。伊庭さんと木をつなぐ道具たち。イメージの数だけ道具があります。

 

#0 出番を待つナラ材

工房壁面には、伊庭さんお手製の工具たちが整然と並びます。削る道具、切る道具、叩く道具、計る道具などなど。伊庭さんと木をつなぐ道具たち。イメージの数だけ道具があります。

 

#1 座面に脚穴をあける

「jig(以下冶具)がすべてです」伊庭さんは言います。傾斜のついた冶具は、脚の角度を生み出すために作られたもの。冶具にナラ材をセットしたら、あとはドリルで穴をあけるのみ。考え抜かれた冶具は、すべてが手作業で手間のかかる伊庭さんの作業を、効率化してくれます。クラフトマンは工夫を凝らして冶具を作り、パーツを正確に形作っていくのです。

 

#2 手がかりを削る

座面裏の手掛かりは、スツールを引き寄せたり、持ったりする際に役立ちます。「ルーター」と呼ばれる掘削機械を前に、伊庭さんはペダルを踏み込んで、材を削りながら横に滑らせます。重いペダルを片足で踏み込み、一定の高さを保ちながら板を横に送る作業は見た目よりも重労働。「プルプルしてしまう」こともあるそうです。三回ほど材を滑らせて、徐々に手掛かりにちょうどいいくぼみを作ります。

 

#3 座面を刳る

座り心地は、お尻がピタリと納まる適度な丸みが命。これが座面を滑らかな曲線にするための冶具です。木枠に縦に渡された2本のレールに、掘削機を前後に滑らせると、徐々に滑らかなくぼみが出来るのです。冶具の左側に付いているハンドルの面取りがされているあたりに、「冶具がすべて」の伊庭さんの思い入れを感じます。

 

#4 座面を手製の鉋で削る

座面を鉋で仕上げる。伊庭さんお手製の鉋を使って、座面の木目を際立たせ、味わいのある座面に仕上げていきます。デスクライトひとつの灯りだけで、集中して進めるこの作業。伊庭さんが一番好きな工程だと教えてくれました。木を感じる時が一番幸せだという木工家。この人が作る家具なら、信頼できます。

 

#5 脚の作り込み

座面が仕上がったら、今度は脚部です。座面から末広がりに広がる脚。座面と脚部の接合部が斜めになっているので、一つ一つ手鋸で切り出し、手ノミで「グリグリ」と仕上げてゆきます。「ハタガネ」と呼ばれる固定具を駆使して、脚を挟み込んで鉋で削っては手触りを確認することの繰り返し。丸く削り上げて、ようやく脚が一本仕上がります。「時代遅れみたいなんですけれど」と照れ笑いの伊庭さんは、どこか誇らしげで嬉しそうでした。

 

#6 座面と脚を組み合わせる

くさびを打ち込んで組みあわせていきます。楔も一つ一つが手作りです。

 

#7 いよいよ塗装に

全体にやすりをかけて、漆が綺麗にのりやすいように下準備(写真左)。伊庭さんは、漆を施す前にまずは柿渋を全体に施しているという(写真右)。木にそのまま漆を施しても、明るい色調に仕上がるので、伊庭さん好みの深みのある色にはならないからだそう。

 

#8 漆を施す

漆を塗り込みます。漆は福井の専門業者から入手。上塗りは6回もされているといいます。塗っては乾かし、そしてふき取る……の繰り返しです。乾燥には湿度が必要な漆。湿度にもよりますが、最短でも仕上がるまでには、7日間はかかります。特に冬はストーブを点けるので、湿度も下がりがち。6台ある加湿器をフル稼働し、ビニールシートを下ろして漆の乾燥室・「室(むろ)」を作って、乾燥させるのです。施した漆は、しっかりふき取れていないところから黒く固まってしまうので、乾燥具合を色の変化で確かめながら、丁寧に拭きあげていきます。気を遣う作業が続きます。

 

#9 出来上がり

一番手前は、漆を一回施したもの。あと5回上塗りがされ、ようやく完成です。

 

#10 番外編

工房のドアの日程表の上にあった、息子さんの一善(かずよし)くん(小1)からのオーダー図面。よく見ると「よこ」とあって、横から見た図面も描いてありました。将来は、お父さんみたいな木工家になるとか?!伊庭一善の「伊庭善」というのは、出来過ぎた話。息子のための屋号だったりして(笑)

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バイヤー江口 隆一

「ジャンルはワイド、セレクトはニッチ」(汗)。
手仕事やインテリア、器にファッションなど、ジャンル広く担当。モノの背景に滲む、作り手の工夫や心意気に惚れるタイプ。
「機能がカタチになっている道具」の潔さ、わかりやすさが好き。売上もニッチで、悩み中。。。

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