食べて欲しいこの逸品|小麦でなにがそんなに違うのかを考える旅へ

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食べてほしい!この逸品

小麦でなにがそんなに違うのかを考える旅へ

  • 2017/08/25

パンの材料であって、パスタやうどんなど麺類の主な材料でもあるから、本来もっとも気にするべき材料なのに、なぜかさほど頓着しなかった。小麦が主原料の商品を提案してくれる新規のメーカーに「小麦はオーストラリアかアメリカですがいいでしょうか」と不安そうに聞かれても、別に大丈夫!と明るく答えてきたが、シロクマベーカリーの100%オーガニック小麦のパンを食べて意識が変わった。気の持ちようということではない。うまく説明しようとは思わない。できるだけ正確なことを伝えたい。ぼくは単身札幌へ飛んだ。

札幌に行く前にシロクマベーカリーのパンを三度食べた。最初は、都内で行われた各社のバイヤーが集まる連絡会議の席上、地域おこしをメインテーマに掲げるこの会議で北海道代表としてプレゼンされたシロクマベーカリーのパンを、試食して即意見を求められた。切ってから随分時間がたっていたのか乾燥してパサついているということを感じた食べはじめ。かみしめると素朴な旨みが口中に広がった。「ひとことで言っておいしいです。が、もっとラインナップとか価格とか詳しいことを知りたい」。この時点で100%オーガニック小麦使用と聞かされていたが、そこへの意識は薄かった。

会議後に資料、サンプルを送ってもらった。5種類の冷凍パンを家に持ち帰り、すぐに食べようと冷凍せずに冷蔵庫に入れて数日、正直忘れかけた頃に取り出して、そういえばと思って試食してみた。資料には、種類ごとに冷凍状態からおいしく食べるためのメーカーとしての工夫が書かれてあり、いや、こんなに種類ごとにいろいろ解凍方法が違っても困る、面倒で仕方がないと思い、わざとそのまま冷蔵庫内に放置して、食べたかったのだ。特別なごちそうならまだしもパンとかご飯とかベーシックなものを食べるときには人は必要以上に時間もエネルギーもかけないから。

放置していた5種類をオーブンで数分加熱してカッティングボードの上でひとくち大に切って食べた。「いや、これうまい」と思わず言葉が口をついて出た。意外と言ってもよかった。しかし、ベーシックな食材ゆえ、採用を決めぬまま、それきり忘れてしまった。一か月くらいたって、近所のスーパーのパンコーナーで「シロクマ」マークの袋に入ったパンを発見する。あ、と思い出してこれを買って、前回同様にオーブンで加熱して食べた。ここに至ってはじめて、シロクマパンなるものが△社や〇社や□社などのパンと商材としては横並びで選択肢の一つであること、それら老舗のパンメーカーのパンに比べて価格は高いが段違いにおいしいこと、パンというものはベーシックな食材であるがゆえにもっと気持ちをこめて商品を見ないといけないことなどさまざまな思いが湧き上がった。そもそも、なんというか小麦が違うってことなのか……。

7月上旬のある日。その日は結果的に札幌が1年で一番暑い日で、34度とか35度になったようだが、東京では普通でむしろ数字だけ見れば、別に取り立てて言うほどの気温ではないのに、完全になめた、油断した。北海道=涼しい!の図式のまま、空港からJRと地下鉄を乗り継いで行くうちに、暑さのために頭の芯がとけそうになっていた。

身も心もとろとろになってようやくたどり着いたシロクマベーカリーは、古い木造の二階建ての洋館。もともとは隠れ家的な一軒家の料亭だったのをイートインもできるパン屋さんに改造したのだという。札幌市の中心部よりやや離れているため、観光客らしき客は皆無。地元客のみがこの暑さの中、ひっきりなしにやってくる。世話をしすぎていない庭。ガーデンパラソルの下に椅子とテーブル。幹線道路に面しているのに静かに感じるのは庭の木々と緑の草花のせいか。店の中に入るとさほど冷房は効いていないが不思議とゆったりすごせる。くらくらだった意識が戻ってきた。

店内で買えるパンはベーシックな食事系のほかに惣菜系、菓子パン系などざっと20種類。店のシンボルである「シロクマ」の足跡のデザインを施したメロンパンが目を引く。

ふと見るとオーガニックの小麦粉そのものも販売されている。シロクマベーカリー(シロクマ北海食品)の荒川伸夫社長が「オーガニックの小麦畑、見ますか」。「ぜひに」とお願いして店から車に揺られること約1時間、石狩川を越えて隣の江別市、さらにはその奥の新篠津村まで。

見渡す限り小麦畑。ところどころに防風林としての白樺が植えられている。北海道・江別産の小麦といえば「はるゆたか」に代表する名小麦の産地だが、よほど小麦の生育に適しているのかと思いきや、広さと日照時間はあるが、もともとは泥炭地で乾燥を好む小麦の栽培のためには畑のどこかに水を抜く装置を作らなければならなかったのだという。小麦の栽培に適していて、自然発生的に栽培が始まったわけではなく改良に改良を繰り返した結果。

入り口に「ファーム田中屋」の看板が見えた。
よく日焼けしてにこやかな笑顔で出迎えてくれた、主の田中哲夫さんが育てている有機JASの小麦は、3.6haの広さの畑にびっしり。

3年以上化学肥料や農薬を使用せず、遺伝子組み換えの苗を使用していない場所は、多くはない。有機栽培のコストは生産量から見ると通常栽培のおよそ2倍強はかかる(状況によっては3〜4倍になることもある)。農業は、加速度的に機械化、省力化が進み、農業人はみな孤独と向き合い、孤独と闘い、孤独に慣れ、孤独と友達になっているように見える。あまりにも広い北海道、石狩平野に広がる畑作地にあって、孤独な作業はとりわけ厳しいのではないだろうか。一人はさびしくないですか。ついそんなことを聞いてみた。「いや、作物に話しかけてるからね。それは大丈夫」と田中さん。そんな甘いことで農業はつとまらんのだと言われた気がして、ちょっと恥ずかしくなった。

向こうの茶色がかっているのが秋蒔き、こちらの緑色のが春蒔き。麦の穂が風に揺れる。ヨーロッパ映画では平和の象徴のようにして使われるモチーフだ。有機栽培に関わる人特有の、使命感とストイックさを漂わせた田中さんに別れを告げて畑を離れた。

荒川社長が言う。「農家が苦労してこんなふうにオーガニックの小麦を育てても、製粉会社がオーガニック専用の小さなラインを作ってくれないとオーガニックの小麦はできないんです。大手の製粉会社ではまず無理」。そんな手間のかかることをわざわざやってくれる製粉会社が、シロクマベーカリーと田中さんの畑のほぼ真ん中あたりに位置する江別製粉。創業時から、農家と一緒になってこだわりの粉を作り、全国に営業してきた知る人ぞ知る、有機JAS認定を受けた製粉会社なのだという。

「ここがないと田中さんの小麦粉もオーガニック小麦に仕上がらないんです」。農家と製粉会社とベーカリー。三位一体になってやっとでき上がった北海道発オーガニック小麦パン。荒川社長が熱く語った小麦の品種とその開発の話は知識としてはなかなか覚えきれない。小麦の品種の勉強もきちんとしないといけない。今回販売させていただくパンの小麦は、「はるきらり」という品種。

小麦でなにがそんなに違うのか。
札幌まで行って、小麦の畑まで見て話を聞いて、聞いただけ感じただけのことを書き連ねても、ぼくが伝えられることは、所詮付帯的な情報にすぎない。ここまでの背景に少しでもぴんとくるところがあれば、一度、シロクマベーカリーのこのパンたちを味わっていただけるとうれしいです。いや、パンは深い。小麦は本当におもしろい……。

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バイヤー堺谷 徹宏

食品担当。
美味あるところどこにでも行くフットワークが身上。
担当カタログは「家庭画報のデリシャス宅配便」。
日本一の食品お取り寄せ通販をめざす56歳。
でも芋焼酎が好き、ラーメンはもっと好き……。

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