食べてほしい!この逸品 | 土佐の海岸で、あの地元の英雄も食べたかもしれないかつおのたたきについて考えた。

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食べてほしい!この逸品

土佐の海岸で、あの地元の英雄も食べたかもしれないかつおのたたきについて考えた。

  • 2018/5/7

たたきというのは、元々は保存食らしい。

大量に獲れた魚を鮮度が落ちないうちにさっと加熱して、生のおいしさを残しながら、少しでも長く食べるための知恵であったそうな。今では、“たたき”は保存というより、生、焼き、煮、揚げ……など一連の調理方法の一つとしての認識に近いと思う。

角度を変えれば商品のバリエーション。これまで毎年冬に、能登の寒ぶりのたたきを、この春には鹿児島県産のかんぱちのたたきをすでにご紹介しているが、いずれもかなりの人気。家庭画報のお客様は、総じて“たたき好き”の方が多いのですね。

今回は、たたきものの魚種としてはもっともポピュラーなかつおなのだが、普通にわらで焼いたものであれば、触手は動かなかったかもしれない。取引先の社長からじきじきに電話が入って、「とにかくおいしいから送りますので検討してください」と。滅多に営業担当を飛び越えて連絡してくる人ではないので、緊張感を持って臨んだのは事実。

これを取り上げた最大の理由は、もちろんおいしいからなのだけれど、おいしさが、わら焼きしたもののような焦げ臭さが背景にあるのではなく、松葉で焼いたせいなのか、かつお本来のおいしさがすっと前に出ているように思えたから。

なぜ、松葉なのか、なぜ、このたたきはこんなにおいしいのか。そんなことを探ってみたいと思っていたところに、その社長から現場を見に行かないかとの誘いが。ぼくは高知へ飛んだ。


最初、かつおのたたきと聞いて正直格別の期待はなかった。背か腹か。表面だけ炙り、中はレアのまま。半解凍くらいで厚めにスライスして盛り付ける。生野菜を敷き詰め、塩胡椒やドライハーブを振ってEVオリーブオイルをかけ回してカルパッチョ風にいただくことも多いが、たいていこの手の商品にはたれがついていてそれを多めにかけて食べることになっている。

この「かつおのたたき松葉焼き」は玉ねぎをスライスして皿に盛り、スライスした本体をその上に載せて、添付のたれをじゃぶじゃぶとかけよ、と説明書にあるのでその通りにした。

まずは、かつおだけ口へ。

なんというか、それがあまりにおいしかったので、カタログに掲載することにした。


ご紹介する「土佐の松葉焼きかつおのたたき」は四万十川物産という太平洋に面した海岸のそばにあるメーカー(ちなみに高知県には、清流 四万十川にあやかった社名の会社がいくつもあるんだそう)が製造。この立地が大事。

創業した先代が地産地消というかけ声もオリジナルという概念も何もない時代に、ここでかつおのたたきを焼くなら松葉だろうと考えて、松葉焼きが始まったといいます。たしかに近くの海岸には風や砂除けのために松がたくさん植えられている。

松は常緑だけれど、ときどき葉を落とす。強風や台風のときにはさらにたくさん落ちる。その落ちた葉を定期的にかき集めて、たたきの燃料にするというわけ。

四万十川物産の雨森社長も三谷部長も、口を揃えて言う。「わらよりも火力が強いんだと思います。一気に燃えるから余分な脂も一気に落ちる」。

わらと松葉の火力を比較したデータはないが、二人の職人が焼き比べてみて言うのだからデータなどよりもよほどリアリティがある。

ストックしておいた松葉をストーブを改良したような釜(通称、焼き器)にたっぷり入れて火をつける。あっという間に炎が広がる。

背側と腹側を分けて焼くのだという。

背は脂が少なめなので20秒から30秒さっと、腹は脂が多めなのでややじっくり数分焼く。

灰が舞う。

火の強さを間近に感じて、こんなに火力が強いとたとえ20秒とかでも真っ黒こげになってしまうのではないか。そう、かくして、真っ黒のたたきの出来上がりとなる。

ただし、焼き上がった直後にカットすると、表面は真っ黒だが、中身には火が通っていない

。この加減が職人技なんだろうし、企業秘密なんだろう。取材のための製造デモンストレーションはあっという間に終わった。あまりにも早くてあっけなくて物足りないくらいだった。


翌日、平日の昼間だというのに春休みの家族連れでにぎわう「ひろめ市場」へ案内された。

そこは、観光スポットであるのと同時に高知市民の憩いの場となる、自由食堂のようなたたずまいであった。広い和洋中エスニックなんでもあるフードコートで好きな飲み物、食べ物を注文して買い、確保していた席に運ぶ。時間がかかるものは、席の番号を伝えれば運んでくれるそうだ。

「午前10時半ですが、けっこうみなさん、飲んでますね」と水を向けると、それは普通のことですと雨森社長。たくさんあいていた席がどんどん埋まっていく。外国人観光客なども押し寄せてきて、正午近くには席待ちの人が出るほどに、人の塊がふくらんできた。築地の場外が同じ屋根の下に一か所にまとまったような風情。

見ると、たくさんの店舗の中でもとりわけ行列が長いのが、「わら焼きかつおのたたき」を実演しながら売っている店。火力に耐える透明の壁の向こうでわらに火をつけ、鉄串に刺したかつおのたたきを炙る。火が燃え移るときには歓声が沸き起こり、人がさらに集まって列を伸ばす。

こういう言い方をするとなんだが、わらの火はけっこうしょぼい。実際に火をつけるので見ているほうは興奮するかもしれないが、ぼくは首を傾げた。

これ、脂もろくに落ちてないし、単にわらのこげをつけているだけのように見える。九州でよく目にする「地鶏炭火焼」は、すべてをちゃんと炭火で焼いているのではなく、安いものは機械で焼いて炭をこすりつけているというが、ぼくはそれに似たものを感じた。

ぼくはだまされない。前日に松葉の強い火で真っ黒焦げになったたたきを見たせいで、違いがはっきりわかったのだ。その市場で、念のため、そのわら焼きを食べた。なんちゃって地鶏炭火焼とは違い、おいしかった、普通に。でも、あくまで普通。雨森社長の松葉焼きのおいしさはこんなものではない。

よくぞ、わらでなく、松葉で焼いてくれた。そんなことを思いついてくれた。ふと、人がやらないことをやって名を成した地元の英雄のことを思った。

そんな気質なのか、土佐っぽ。


いろいろなことがわかって、あらためてこの土佐の宝物を食べる。

わらや炭火で焼いたときのような燃料そのものの「香ばしさ」はやはりあまり感じない。ふんわりと松葉の香りが漂った後、かつおそのもののおいしさがどっと押し寄せる。やや焦げたような香ばしさも同時に鼻をつくが、それがたぶん肝だ。脂ののったかつおが材料で、それが強い火力で炙られることで余分な脂が落ちる。その脂が松葉の香り渦巻く炎の中で燃え上がり、かつおの本体に必要最小限だけ残った脂と絡む。言葉で説明すると、そんな複雑な独自のおいしさ。

神経質なフレンチのシェフが肉や魚の火入れの時間の按配に気を使いすぎたり、複数の素材を絡み合わせてつくるときのソース作りでうまくまとまらずに立ち止まってみたりというのとは対極にある、大胆でスピード感ある調理でできあがる、感動を呼ぶかつお料理。

やるな、土佐っぽ、世界をめざせ!

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バイヤー堺谷 徹宏

食品担当。
美味あるところどこにでも行くフットワークが身上。
担当カタログは「家庭画報のデリシャス宅配便」。
日本一の食品お取り寄せ通販をめざす57歳。
でも芋焼酎が好き、ラーメンはもっと好き……。

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